注文住宅でもリノベでもない、これからの住まいの選択肢
建築業界を取り巻く環境は、ここ数年で大きく変化しています。
世界情勢や物価の上昇、自然災害など、さまざまな要因によって住宅価格は上がり続けています。もちろん、こうした社会の変化は、私たち設計者がコントロールできるものではありません。
だからこそ、「これからの家づくりをどう考えていくべきか」を、日々自分自身に問いかけながら仕事をしています。これまで私は、注文住宅を中心に、近年はリノベーションにも携わり、多くの住まいづくりに関わってきました。そして最近、もうひとつの可能性として、「規格住宅」という選択肢についても考えるようになりました。
家づくりの選択肢は変わり始めている
現在は、「注文住宅は価格的に手が届きにくい」、「中古住宅を購入してリノベーションしたいけれど、性能や築年数に不安がある」。そう感じる方が増えているように思います。
そうした中で、あらかじめ計画された住まいをご提案する規格住宅も、これからはひとつの選択肢になるのではないかと考えています。もちろん、一般的な建売住宅のように「同じ家をたくさん建てる」という発想ではありません。例えば、2〜3棟ほどの小さな分譲であっても、その土地を読み、ご家族の暮らしを想像しながら設計することはできるはずです。
コンパクトであっても、心地よく暮らせる空間をつくることには自信があります。
一方で、迷いもあります。
規格住宅は、ある程度住まい方を設計者が決めることになります。
それは、お客様の暮らしを提案できるという魅力でもありますが、一歩間違えれば、「暮らし方を押し付けてしまう」ことにもなりかねません。
こうしたことを考えるようになった背景には、日々の家づくりがあります。
例えば、3,300万円の計画から300万円ほど予算を下げるために調整することがあります。
企業努力で吸収できる部分もありますが、それだけでは足りず、
「ここは諦めましょう。」
「ここは削りましょう。」
そんなお話をしなければならない場面も少なくありません。
その時間は、設計者として決して楽しいものではありません。
本来、家づくりは夢や希望を形にしていく時間です。
それなのに、予算という現実によって、「そもそも家を建てること自体を諦めようか」と思わせてしまうような状況は、できるだけ避けたい。
その想いが、私の中にはあります。
だからこそ、注文住宅だけにこだわらず、「今の時代に合った住まいのあり方」を考え続けたいと思っています。
現在進めている、80歳のお客様のリノベーションも、その考え方につながっています。
築45年の住宅で、敷地はいわゆる旗竿地です。一般的には敬遠されがちな土地かもしれません。しかし、車を使わない暮らしであれば、静かで落ち着いた環境という見方もできます。これから外出が少なくなったとしても、家の中で心豊かに過ごせるように。室内から緑を眺められる植栽を計画し、ウッドデッキやフェンスを設けて安心できる外部空間をつくる。
もちろん、耐震性能もしっかり向上させます。土地の条件だけを見れば、不利な点はいくつもあります。それでも、その場所で暮らす方にとって何が一番幸せなのかを考えることが、設計者の仕事だと思っています。
これから先、家づくりの形は変わっていくかもしれません。
注文住宅、リノベーション、規格住宅。
そのどれが正解ということではなく、お客様にとって最も良い選択肢は何かを考え続けることが大切なのだと思います。私はこれからも、時代の変化と向き合いながら、新しい可能性を探していきたいと思っています。
そして、どんな住まいの形であっても、「目の前のお客様にとって本当に良い住まいをつくる」という想いだけは、変わらず持ち続けていきたいと思います。